Title: 「評価」から「解説」へ

「工学と理学の違い」という項目で、工学と理学では研究の目標が異なるという話を書きました。 しかし、もっと大きく「学問」というくくりかたをするならば、工学も理学も共通の大きな目標をめざしています。それは人類の叡智の進化です。 下は東大先端研ニュースに掲載された原稿です。



「評価」から「解説」へ

 あらゆる「評価委員会」を「解説委員会」という名前に変えてみてはどうだろう、という話を書かせていただく。

 ある研究プロジェクトの国際評価委員会に参加したことがある。日本人の委員は私一人であった。評価のとりまとめの議論においてアメリカの委員がこう発言した。「結局のところ、このプロジェクトには、nothing new だ」。それに対して、イギリスの委員が、「nothing new というのはunfairな素人評価だ。我々の責務は、我々の専門知識に照らして、もしこのプロジェクトに欠けているところがあるならば何がどう欠けているのかを明らかにし、また良いところがあるならば何がどう良いのかを説明することである」と反論した。私はそれまでに評価される側としても評価する側としても多くの委員会に参加してきたが、そういう責任ある発言を聞いたことがなかったので、大いに感心した。

 よく耳にするのは、「私はこの分野の素人なのですが。。。」で始まる発言である。素人なら委員を引き受けないでほしい、と内心思ってしまう。むろん、多くの場合は、大所高所からの立派な御意見である。しかし、自分の狭い分野の価値基準があらゆる学問分野に通用すると思い込んでいらっしゃるとしか思えないとんちんかんな発言も珍しくない。これは、本物の素人よりも、たちが悪い。

 我々は人類の叡智の進化をめざして、いろいろな道を自分で開拓しながらいろいろな方法で苦闘している。同じルールで同じゴールをめざすスポーツ競技とは本質的に異なる。ノーベル賞も、成果を挙げた人を祝福するのではなく、人類の叡智がまた少しだけ進化したことを人類皆で共に祝福するための賞である、と考えたい。成果を挙げた先生とは別の道で苦闘して失敗している人も同時に祝福されていると考えるべきである。受賞者を勝者、非受賞者を敗者、と勘違いしているような素人マスコミや素人政治家に大学人までが同調するならば、それは大学の自殺行為である。成果には至らず失敗を繰り返しながら苦闘している研究者たちの苦闘の価値を解説していく努力を怠ってはならない。解説の能力もないくせに平気でマルバツをつけている評価委員や科学技術政策立案委員がいらっしゃるならそういう方々には全員退任していただきたい。

 夏目漱石も「吾輩は猫である」の中で迷亭君にこう語らせている。「…昔しの希臘人は非常に体育を重んじたものであらゆる競技に貴重なる懸賞を出して百万奨励の策を講じたものだ。然るに不思議な事には学者の智識に対してのみは何等の褒美も与へたと云ふ記録がなかったので、今日迄実は大に怪しんで居た所さ」「…彼等希臘人が競技に於て得る所の賞与は彼等が演ずる技芸其物より貴重なものである。それ故に褒美にもなり、奨励の具ともなる。然し智識其物に至ってはどうである。もし智識に対する報酬として何物をか与へんとするならば智識以上の価値あるものを与へざるべからず。然し智識以上の珍宝が世の中にあらうか。無論ある筈がない。」

 異なる分野の智識を解説する能力を身につける訓練の場としても、下駄屋の隣に魚屋があるがごとき先端研は、ぴったりであろう。魚屋も下駄屋とつきあううちに、下駄の柾目の善し悪しがわかるようになるものである。我々は大いに智識の価値を語らなければならない。その際、いわゆる客観的評価というやつはあまり意味をなさないのではないか。出て来た式だけでなく式の導出過程を重視するはずの研究者が、いわゆるインパクトファクタがどのように計算されているかも知らずに、インパクトファクタの値を気にするのは、非常に不思議なことである。インパクトファクタが「インパクト」を計算しているのではないことすら知らない人がいるようである。東大が工学・情報工学分野で世界7位の大学であるのはけっこうなことかもしれないが、何をどう計算したら7位になったのかはあまり知らされていない。ある会社の労働組合の委員がその会社の役員に従業員の評価方法をもっと客観的にしてほしいと迫ったそうである。私にその話を聞かせてくれたその役員は、「本当に客観的に評価したほうがいいの?駄目だと評価された従業員は上司が変わってもまた駄目だと評価されることになるよ。自分を主観的に高く評価してくれる上司に巡り会う楽しみがなくなっていいの?」と返事したそうである。我々研究者も、たとえ今理解されなくとも、自分の死後であってもいいから、自分のやっている研究の価値が社会に理解される日が来るのを楽しみにしている、と言ってよいかもしれない。その日がやってくるためには、いわゆる客観的な数字をいくら並べてもあまり役に立たないのではないか。工学系の場合は物として作って見せるという手段を持ってはいるが、我々の生む智識の価値を理解してもらうためには、まずは、主観的に大いに語り、解説していくことが重要な気がする。

 とまあ口で言うのは簡単だが、実際に実行するのは大変である。手始めに先端研の戦略的研究拠点育成プログラムの評価委員の先生方に今回は解説委員でお願いします、と言えるかどうか。。。。。。

2005年7月 東京大学 先端研ニュース No.54 草稿

       堀 浩一 (東京大学)



Author: Koichi Hori


堀浩一の紹介

堀浩一の紹介:
(これは著者が手で作成した空間です)
(上の空間の中でクリックしていただけますと、各項目にアクセスできます。)
(「堀 浩一」という項目から始めて、関連する話題を、ざっとではありますが、抽象的な問題は右へ、具体的な問題は左へ、一般的な話題は上へ、人工知能研究関連の話題は下へ、という方針で、配置してみました。ただし、すべての項目の配置がその方針を満たしているわけではありません。)

堀浩一の略歴と連絡先は「堀 浩一」にあります。 詳細な履歴は「堀 浩一 詳細履歴」にあります。
たまに「堀 浩一 の ひとりごと」を更新しています。なぜかこのひとりごとへのアクセスが比較的多いのですが、読んで下さっている皆様に感謝申し上げます。
堀は人工知能の研究者です。時々堀洋一先生と間違われることがありますが、 「堀洋一さんと堀浩一は別人です」
堀研究室は東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻にあります。 研究室では、航空宇宙工学への人工知能の応用だけでなく、学生諸君の自主的なテーマ設定を尊重して、幅広くいろいろなテーマの研究を行っています(「堀研究室所属を希望する皆さんへ」「活躍する教え子たち」)。

私自身は、人工知能研究の中でもやや特殊な「創造活動支援システムの研究」を行ってきました。 なんだか怪しい響きの研究テーマだと思われるかもしれませんが、いつのまにか仲間も増えました(「ことばと発想のテクノロジー 」)。
創造活動支援システムの一例として「堀の自作ソフトKNC(Knowledge Nebula Crystallizer)」を作りつづけています。このサイトもそのKNCで動いています。「KNC(Knowledge Nebula Crystallizer)の原理 」にやや専門的な説明を書きました。このサイトを動かしているKNCは「Rails + MySQL」で実装しています。

研究者が何をめざして研究をおこなっているのかの本音について、「事業仕分けをきっかけに思う」に書きました。研究者の本音を身も蓋もない言い方で言ってしまうならば、面白くて仕方ないので研究しているということになるでしょう。
しかし、学問ごとに目標とするところに少しずつ違いはあって、 我々工学の研究者がめざしているのは、おおげさな言い方をするならば、人類の幸福です(「工学と理学の違い」)。
理想と現実の狭間で、研究をどうやって評価すべきかは、重要で難しい問題です(「評価」から「解説」へ 」「人工知能学会創立25周年にあたって 」)。
できれば、産学連携も、理想に向かって「志高き産学連携」を行いたいものです。

最近再び人工知能の研究が注目されるようになってきています。 そもそも知識とは何なのだろうという問題については、昔々現代思想誌にも書かせていただいたことがあります(「知識の姿 − 人工知能研究者の立場から」)。
「機械が心を持つようになるか?」 「人工知能倫理(AI Ethics)について」 「機械との競争について」 「集合知とは何か」等々、私も考え続けています。
学会の果たすべき役割についても考え直す必要がありそうです(「人工知能学会創立25周年にあたって 」)。
それらすべてに関係する「人工知能とは」という解説記事を書きましたので、それも掲載しておきます。


最終的に私がめざしているのは、恩師からの宿題の「文化国家としての技術立国 」に少しでも貢献することです。


automatically generated story 13.9.28.12

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これは自動的に生成された空間です。
「起承転結」の関係になるような項目をシステムが自動的にさがして上から下に並べました。
上の空間の中でクリックすると各項目にアクセスできます。


 

現在の御興味の推定位置と御興味の移動予測

(これは、トピック間のキーワードの共有度とユーザの行動履歴をもとに自動的に作成した空間です。)

御興味移動先予測地点に近い項目から遠い項目まで一覧(距離):


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現在位置 x = 0.25, y = 0.91
現在誤差 sigma = 0.0
予測位置 x = 0.25, y = 0.91
予測誤差 sigma = 0.07


(別の方法で計算した)現在の文脈で関連しそうな項目(関連度):
relevant in the current context (relevance score):


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