Title: 「科学技術」か「科学・技術」か

「科学技術」か「科学・技術」か。どちらが望ましい表記でしょうか。

伝統的基礎科学の研究者の多くは中黒入りの「科学・技術」が望ましいと主張されます。STS(Science and Technology Studies, 科学技術社会論)の研究者の中には中黒無しの「科学技術」を強く主張される方がいらっしゃいます。工学の研究者は、どちらでもかまわないと思っている人が多いように思います。

scienceの語源はラテン語のscientiaで、もともと知(= knowledge)という大きな意味の語であり、technologyはそこに含まれているので、わざわざscience and technologyというようにtechnologyを表に出す必要はない、とおっしゃる欧米の科学者も多いようです。

しかし、science and technologyという言い方をする時のscienceはもともとの大きな意味のscienceではなく、19世紀以降に矮小化された小さな意味でのscienceでしょうね。
一方、technologyのほうの語源はギリシャ語のart, skillだそうです。こちらは、小さな意味でのscienceが大きく発展するよりもずっと前から、砲術、医術、建築術などとして、存在しつづけてきました。

「科学・技術」と中黒を入れるべきだと主張される科学者は、自然科学、人文科学、社会科学などの基礎科学を、技術なんかと混然一体にしないでほしい、独立した別物だ、と考えておられるのだと思います。
一方、中黒無しの「科学技術」という用語が今や正しいのだと主張される科学技術社会論者は、現代の科学と技術は独立ではなく、オーバーラップしている部分も多く、また科学の成果を技術に応用するという一方向の関係だけではなく、技術の研究から科学的発見が生まれるという逆方向の関係も重要になっており、中黒を入れずに一体的に議論すべきだ、と考えておられるのだと思います。

工学の研究に携わる者としましては、後者の科学技術社会論者の主張のほうが実態に合っているように思います。が、一方で、技術とはまったく関係無い人文科学、社会科学、自然科学の基礎研究もひきつづき重要であるとは思います。

「事業仕分けをきっかけに思う」という項目にも書きましたが、問題なのは、科学技術立国という言葉が、科学技術で食っていける、という誤解を与えそうなことだと思います。飯の種には直結しない基礎科学も国の礎として大事にするのだという高い志を示した言葉として科学技術立国という言葉が用いられているのであればよろしいのですが。
そう考えると、日本学術会議が主張するように、やはり中黒を入れた「科学・技術」が望ましいということになりますでしょうか。
でも、わざわざ中黒を入れられると、「お前ら技術屋のやっていることは科学ではない」と拒絶されているようないやな印象も受けなくはないですね。
この際、昔に戻って、全部ひっくるめて、「哲学」と言ってしまうという手もありますでしょうか。
しかし、これまたいろいろと誤解されそうだから、科学技術から「科」と「技」を削除して、「学術」にしてしまうのは、どうでしょう。
「科学技術立国」→「学術立国」、「総合科学技術会議」→「総合学術会議」。
大学の人間としては悪くない印象を受けますが、うーん、国民から遊離しているという印象を与えそうでもありますね。
となると、やっぱり、今のまま、中黒無しの「科学技術」というのが一番無難なのかもしれません。

すみません、結論無しです。

        堀 浩一 (東京大学)



Author: Koichi Hori


 

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