Title: 集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ について

 「機械が心を持つようになるか」「機械との競争について」などという、今後の人間社会における機械のあり方に関わる問題について書いてみてきましたが、ここでは「集合知」の問題を考えてみたいと思います。
 以下、西垣 通 著「集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ」中公新書、2013年、を読んで考えたことを書いてみます。
 西垣先生は、この本の中でこう述べておられます。「透明でフラットなグローバル世界をつくり、ネット集合知を活用して効率よく意思決定をするという企ては、結局お粗末すぎることがわかった」。
 私もその通りだと思います。
 Aという意見とBという意見が世の中にあった時に、Aに「いいね」と言う人が多く、Bに「いいね」と言う人が少ないと、現在の多くのシステムでは、BよりもAのほうが優先的に表示されます。すると、ますますAに「いいね」と言う人々の勢力が拡大され、結果的にBという意見が消えていってしまいます。さらに、伝統的なマスメディアまでが、「何万回再生された今評判のネット動画です」と紹介するようなことをやって、そのプロセスを加速させてしまっています。
 この例では、Aに賛成する人の数にAの表示の優先度が掛算されて、さらに賛成する人が増える、というように掛算の項が入っています。このように掛算の項が入っているシステムは非線形のシステムと呼ばれます(掛算の項がなく、足し算だけで成立している系は線形のシステムと呼ばれます)。西垣先生は、西川アサキの非線形系のモデルを使って、次のような結論に到達されます。「グローバルでフラットな社会がただ一つあり、開かれた存在である個人がそのなかで自在に情報を交換できるという通俗的イメージは、捨て去ることにしよう。かわりに、ローカルな半独立の社会集団の連合体というイメージをもたなくてはならない」。
 そして、ITが今後果たすべき役割は、開放系でグローバルに人々をつなぐことではなく、「ローカルな社会集団内でのコミュニケーションの密度をあげ、活性化していくためのITだろう。言いかえると、社会集団の下位レベルにある暗黙知や感性的な深層をすくいあげ、明示化するような機能が、ITに期待されるのである。」と述べられます。
 「下位レベルにある暗黙知や感性的な深層をすくいあげ、明示化するような機能」というのは、まさに私自身がやってきて、私の著書「創造活動支援の理論と応用(オーム社、2007年)」でも解説したことですので、私も大賛成です。
 「ローカルな半独立の社会集団の連合体というイメージをもたなくてはならない。」という主張を単純に解釈すると、Bという意見がグローバルに消されてしまうなら、Aという意見のコミュニティとBという意見のコミュニティをそれぞれローカルに残して、その両者を強く結合しなければよい、ということが主張されていると読めます。それはそれで、正しい解の一つであることは間違いないですし、Aだけに支配されたり、不安定にどこにも定まらなくなる世界よりずっと良いと私も思います。しかし、西垣先生がローカルに安定すればそれでよいと考えていらっしゃるのかどうかはこの本だけではよくわかりませんでした。私自身はそこからもう一歩先に行きたいような気がします。(おそらくは、西垣先生がめざしておられることも同じだろうとは思うのですが。)
 私が考えているのは、西垣先生がおっしゃる「下位レベルにある暗黙知や感性的な深層をすくいあげ、明示化するような機能」を、ローカルな社会集団の内部だけのための機能にとどめず、それをグローバルなレベルにも適用してみたいということです。具体的にどういうことになるかと申しますと、まず、Bに「いいね」と言う人が少なくても、それの表示の優先順位を下げない。そして、AとBのそれぞれの背後にある価値観や文化を表出するためにITを使ってもらう。めざすのは、AとBの間の勝ち負けの戦いではなく、AとBの間の妥協でもなく、創造的に新しくCを作ることです。ちょうど西の文化と東の文化が出会ってヘレニズム文化が生まれたように。
 実際にはどうやってそれをやったらいいでしょう。これは簡単な問題ではありませんので、一つの大きな研究テーマになります。多くの利害関係者の意見を調整するコンセンサス会議などでは、ファシリテーターとかモデレーターと呼ばれる専門家が、少数意見を尊重してその背後の価値観を探り出す役割を担っています。それが参考になるかもしれません。私たちがやってきた創造活動支援システムの研究の成果も応用できるでしょう。非線形系の数理的なモデルも作り直す必要があります。もちろん、なんでもかんでもITでやればよいなどとは考えていません。人と人との対面のコミュニケーションとITを駆使したコミュニケーションを上手に組み合わせることになると思われます。

 (できるだけわかりやすく説明したいと思い、ここでは、非常に単純化して説明してしまいましたが、西垣先生の本では、もっと複雑な考察がなされています。知能とは何か、知識とは何か、人間と機械の違いは何か、などについて興味のある方にはお薦めの本だと思います。)

           2013年5月18日 堀 浩一 (東京大学大学院工学系研究科)



Author: Koichi Hori


堀浩一の紹介

堀浩一の紹介:
(これは著者が手で作成した空間です)
(上の空間の中でクリックしていただけますと、各項目にアクセスできます。)
(「堀 浩一」という項目から始めて、関連する話題を、ざっとではありますが、抽象的な問題は右へ、具体的な問題は左へ、一般的な話題は上へ、人工知能研究関連の話題は下へ、という方針で、配置してみました。ただし、すべての項目の配置がその方針を満たしているわけではありません。)

堀浩一の略歴と連絡先は「堀 浩一」にあります。 詳細な履歴は「堀 浩一 詳細履歴」にあります。
たまに「堀 浩一 の ひとりごと」を更新しています。なぜかこのひとりごとへのアクセスが比較的多いのですが、読んで下さっている皆様に感謝申し上げます。
堀は人工知能の研究者です。時々堀洋一先生と間違われることがありますが、 「堀洋一さんと堀浩一は別人です」
堀研究室は東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻にあります。 研究室では、航空宇宙工学への人工知能の応用だけでなく、学生諸君の自主的なテーマ設定を尊重して、幅広くいろいろなテーマの研究を行っています(「堀研究室所属を希望する皆さんへ」「活躍する教え子たち」)。

私自身は、人工知能研究の中でもやや特殊な「創造活動支援システムの研究」を行ってきました。 なんだか怪しい響きの研究テーマだと思われるかもしれませんが、いつのまにか仲間も増えました(「ことばと発想のテクノロジー 」)。
創造活動支援システムの一例として「堀の自作ソフトKNC(Knowledge Nebula Crystallizer)」を作りつづけています。このサイトもそのKNCで動いています。「KNC(Knowledge Nebula Crystallizer)の原理 」にやや専門的な説明を書きました。このサイトを動かしているKNCは「Rails + MySQL」で実装しています。

研究者が何をめざして研究をおこなっているのかの本音について、「事業仕分けをきっかけに思う」に書きました。研究者の本音を身も蓋もない言い方で言ってしまうならば、面白くて仕方ないので研究しているということになるでしょう。
しかし、学問ごとに目標とするところに少しずつ違いはあって、 我々工学の研究者がめざしているのは、おおげさな言い方をするならば、人類の幸福です(「工学と理学の違い」)。
理想と現実の狭間で、研究をどうやって評価すべきかは、重要で難しい問題です(「評価」から「解説」へ 」「人工知能学会創立25周年にあたって 」)。
できれば、産学連携も、理想に向かって「志高き産学連携」を行いたいものです。

最近再び人工知能の研究が注目されるようになってきています。 そもそも知識とは何なのだろうという問題については、昔々現代思想誌にも書かせていただいたことがあります(「知識の姿 − 人工知能研究者の立場から」)。
「機械が心を持つようになるか?」 「人工知能倫理(AI Ethics)について」 「機械との競争について」 「集合知とは何か」等々、私も考え続けています。
学会の果たすべき役割についても考え直す必要がありそうです(「人工知能学会創立25周年にあたって 」)。
それらすべてに関係する「人工知能とは」という解説記事を書きましたので、それも掲載しておきます。


最終的に私がめざしているのは、恩師からの宿題の「文化国家としての技術立国 」に少しでも貢献することです。


近未来の課題へむけて


automatically generated story 42.31.16.23

This is an automatically generated story.
これは自動的に生成された空間です。
「起承転結」の関係になるような項目をシステムが自動的にさがして上から下に並べました。
上の空間の中でクリックすると各項目にアクセスできます。


 

現在の御興味の推定位置と御興味の移動予測

(これは、トピック間のキーワードの共有度とユーザの行動履歴をもとに自動的に作成した空間です。)

御興味移動先予測地点に近い項目から遠い項目まで一覧(距離):


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現在位置 x = 0.33, y = 0.92
現在誤差 sigma = 0.0
予測位置 x = 0.33, y = 0.92
予測誤差 sigma = 0.07


(別の方法で計算した)現在の文脈で関連しそうな項目(関連度):
relevant in the current context (relevance score):


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