Title: IBM ワトソン

IBMが作ったワトソンという人工知能システムが、2011年に「Jeopardy!」というクイズ番組で人間のチャンピオンに勝利しました。これについて新聞社から感想を求められた際に、私が書いた回答は、下のとおりです。

1)時々見かけることのある議論で、私があまり意味が無いと思う議論は、「このような技術が進歩すると人間の仕事の一部、あるいはもっと言って人間の尊厳の一部が奪われる恐れがあるのか」という議論ですが、「人間の仕事や尊厳の一部」が奪われることは決してありません。あくまでもこの人工知能は、道具としてとらえていただくのがよいと思います。議論すべきは、その高性能の道具をどのように使うのが最も望ましい方向か、という議論だと思います。(→2013年5月10日追記:「機械との競争」という本が出て、機械が人間の雇用を奪っていることが客観的なデータによって示されました。これについて私が考えることは、「機械との競争について」という別項目で書かせていただきました。)

2)また人間と人工知能の競争という視点での議論も見かけることがありますが、それも意味が無いと思います。わかりやすい目標の設定のために、今回はクイズ番組での回答の競争という形がとられたのだと思いますが、競争そのものは、人間と自転車の競争が無意味だというのと同じ意味で無意味だと思います。強いてたとえて言うなら、ころばずに走れる自転車を作ることができました、というのを見せてくれたのがすばらしいことだと思います。(ご存知のように、ころばずに走れる自転車が生まれるまでにはけっこう歴史があるんですよね。)

3)本題のその高性能の道具をどのように使うのが最も望ましい方向か、という問題に入る前に、「そもそも、今回のこの成果は画期的といえるのか」、という議論をしなければいけないでしょうね。一言で結論を申しますと、「すばらしいと言ってよいと思う」という結論になると思います。今までにまったく無かった技術が出現したというわけではありません。しかし、人工知能研究者がずっと研究しつづけてきたさまざまな技術を見事にインテグレートしたそのインテグレーション(統合)のレベルの高さは評価されると思います。人工知能の研究は1956年に始まったとされていますが、それからこれまでにこつこつと積み重ねられてきた知識処理、自然言語処理、さらには機械学習などのいろいろな研究成果がひとつの形に見事に集大成されているという印象を持ちました。Googleで検索しても似たようなことができるのではないか、と思う一般の方もいらっしゃるかもしれないと思うのですが、それと何が違うかと申しますと、「正解」を答えてくれることです。「正解」を答えるためには、質問に答えられるように、自分の知識を構造化しておかなければなりません。また、質問を、自分の知識を使えるように変形しなければなりません。それらは1970年代から盛んに行われてきた研究ですが、これだけ大規模・高速なシステムはまだ実現されていませんでした。質問応答の技術そのものもさることながら、知識を構造化して蓄えておく、しかもそれを大規模に行う、というある意味で泥臭い作業を実際にやってみせたことは、今後人工知能を社会のために役にたたせるためのひとつの正しい方向を示していると思います。

4)さて、ようやく本題の「その高性能の道具をどのように使うのが最も望ましい方向か」という問題ですが、上に述べましたように、今回の技術が役にたつのは、「正解」が求められる分野だと思います。世の中に、「正解」が求められたり、そもそも「正解」が存在する分野がどれだけあるのか、と問われるならば、たしかに「正解」の無い世界のほうが大きくて重要のような気はします。私をはじめ、一部の人工知能研究者は、創造的な活動を支援するというような、「正解」の存在しない世界にもアタックを始めています。しかし、「正解」の求められる分野も、少なくないでしょう。「絶対的な正解」は無いとしても、現在の専門知識を総動員した限りでの正解に最も近い解が欲しい、という要求はいろいろな領域にあるはずです。一般の人にとって重要な代表的な領域は医療でしょうか。自分のかかりつけのお医者さんの治療法が本当に最適なのか、というのは誰しも知りたいところです。お医者さんにしても、忙しすぎて勉強できない最新の研究成果を自分の診断に生かしたいと思うかもしれません。現在のインターネット上の玉石混淆の情報ではなく、専門家のお医者さんたちが自分たちの最新の研究成果を持ち寄って構造化された大規模知識ベースを構築し、それを使えるようになるならば、医療診断の姿はかなり変わってくるかもしれません。あらゆる道具がそうであるように、使い方によっては、「コンピュータがこれが正解に一番近いと言っている」と無責任な診断をする困ったお医者さんも出てくるかもしれませんが、良いお医者さんは、患者との対話という大事な仕事にもっと時間を使ってくれるようになるかもしれませんね。今回のワトソンは、「ジョパディ!」というクイズ番組に勝利するようにチューニングされているようですが、医者、患者双方にとって最も望ましい医療知識システムのあり方というのを十分に議論した上で、それに沿ってチューニングする、というような仕事が、今後いろいろな応用領域でなされることが望まれることだろうと考えます。

      堀 浩一 (東京大学)



Author: Koichi Hori


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(別の方法で計算した)現在の文脈で関連しそうな項目(関連度):
relevant in the current context (relevance score):


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